大畑亮介

高齢出産の増加を背景に、出産の痛みを麻酔で和らげる「無痛分娩(ぶんべん)」への関心は、一段と高まっています。分娩の疲労が少なく、職場復帰がしやすいことなどがメリットです。広く普及した欧米に比べると、選択する妊婦は少ないのが現状だ。関心は高まっているけど、実際には断念する人が多いということです。普及が進まない背景には、「産みの苦しみ」を美徳とする風潮に加え、麻酔を安全に行える専門医の不足とい問題があります。(2017年、リトリート編集部 大畑亮介)

やり方

背中から局所麻酔薬と医療用麻薬を入れる

無痛分娩は、「硬膜外麻酔(こうまくがいますい)」という方法が一般的です。この方法では、背中の脊髄の外にある硬膜外腔(がいくう)と呼ばれる所に細い管を入れ、そこから局所麻酔薬と医療用麻薬を入れます。

子宮などからの痛みを脳に伝える「脊髄」に麻酔薬を効かせるため、妊婦の意識をはっきり保ちながら、お産の痛みを抑えることができるとされます。

病院の数

全国で160

公的保険は使えません。通常の出産費用に3万~15万円が上乗せになります。麻酔科医や産科医らでつくる「日本産科麻酔学会」によると、無痛分娩は少なくとも約160の施設で行われています。

メリット

疲労が少なく、回復が早い

無痛分娩のメリットは、最大の利点である痛みの軽減だけではありません。お産の疲労が少なく済み、回復が早いという効用もあります。

高齢出産に適している

大学病院の麻酔科の医師は「産後の育児や職場復帰もスムーズ。出産の疲れが残りやすい高齢出産に適している」と指摘します。

高血圧を安定させる

また痛みによる血流の悪化を防ぐことで、妊娠に伴う高血圧や糖尿病の症状を安定させることも期待できます。

デメリット

分娩が平均1時間長くなる

デメリットもあります。運動神経がマヒしていきみづらくなる傾向があります。通常の分娩と比べると、平均で1時間ほど長くなるとされます。頭痛が起こったり、一時的に耳鳴りがしたりすることもまれにあるようです。

赤ちゃんへの影響は「ほとんどない」が通説

ただ、神経に障害が残るなど硬膜外麻酔に伴う重い合併症が生じることは20万分の1以下と言われています。赤ちゃんへの影響もほとんどないと言われています。

普及

フランスやアメリカでは6割が選択

そのためフランスや米国で6割の妊婦が選択するなど、海外で普及しています。

日本では数パーセント

一方、日本で無痛分娩を選択する人は少ないです。厚生労働省研究班が2008年にお産施設を対象にした調査によると、硬膜外麻酔による無痛分娩は2・6%でした。

麻酔科医

人数が不足

普及しない理由について、無痛分娩に詳しい北里大学麻酔科診療のドクターは、おなかを痛めて産むことを美徳とする風潮が関係しているとした上で、「安全に無痛分娩を提供できる麻酔科医や産科医が少ない」と説明します。

「産科麻酔の研修を受けた医師」が必要

麻酔の技術や管理に慣れていない産科医が行うケースもあります。開業医を中心につくる日本産婦人科医会は2014年、「十分な産科麻酔の研修を受けた医師が担当すること」と提言しました。安易な無痛分娩の普及に警鐘を鳴らしている。

日本産科麻酔学会

日本産科麻酔学会の医者は「安全で、快適な無痛分娩を普及させるため、人材の育成を進めたい」と話している。

具体例・妊婦の体験談

東京都内の女性(36)は2016年12月、順天堂大学病院(東京都文京区)で第2子となる女児を産みました。もうすぐ3歳になる長女の出産では痛みが強く、失神寸前だったといいます。

コメント「痛みはなかった」

産後の回復にも4か月ほどかかったことなどから、今回は無痛分娩を選択しました。陣痛から出産まで13時間かかったものの、痛みはなくリラックスして産めたといいいます。「もう一人産むとしたら、絶対に無痛を選びたい」と話しています。